COLUMN

 
 
2022.5.11

 

日本人が陥りがちな、ネイティブが違和感を感じる英文デザイン
─その4─うるさい見出し

2022.5.11

 

日本人が陥りがちな、
ネイティブが違和感を感じる
英文デザイン─その4─
うるさい見出し

日本企業の英文経営報告レポートにありがちな、小見出しが多すぎるレイアウト

前回のコラムで「長すぎる見出し」というテーマをコピーエディットの視点から取り上げましたが、今回は「長い」だけでなく、見出しが目障りになってしまっている英文レイアウトについてその問題点と対処法を取り上げます。

 見出しは最小限に抑えるのが、英文紙面の常識

 
標題の「うるさい」を今どきの言葉で言えば、「うざい」と言えるでしょうか。個々の大見出しや小見出しが長すぎて一目で捉えにくいのに加え、日本人が作成するレポート類にありがちなもうひとつの傾向として、見出しのレベル(階層)が必要以上に多いことがあります。
 
お役所の報告書に限らず、企業のパワーポイント資料から統合報告書に至るまで、日本のレポート類では3階層の見出しは当たり前、場合によっては5階層くらいまであるものも珍しくありません。それに比べて欧米のレポートは、もっとシンプルです。冊子形式のレポートでも2階層からせいぜい3階層、パワーポイント形式のプレゼン資料であれば1ページに見出しひとつか、ページによって小見出しが1階層付く程度が一般的です。
 
 
欧米のプレゼンテンプレート

 
欧米のプレゼンテンプレートの例。見出しは1ページにひとつのシンプルなものがほとんど

 
 
見出しというのは、本来アイキャッチ要素です。いろいろなレベルのアイキャッチがあちこちにあると、読者の目は混乱し、適切なアイフロー(目の動き)を生み出せません。とりわけ見苦しいケースが多いのが、パワーポイントやキーノートで作られた日本企業の決算説明会資料や経営計画説明資料です。第1階層の大見出しとほぼ同じ言葉を第2階層で繰り返し、それに番号が付いているだけといった例もよく見受けられます。見出しのレベルが多すぎてカオス状態に陥っているのです。このような紙面は日本人でも見づらいと思いますが、日本式の多階層の見出しに慣れていない海外読者にとってはなおさらで、このような紙面はとても「うざい」ものに映ってしまいます。

見出しが多すぎるページは、読み手を混乱させる

 
見出しの種類や数が多すぎると、読み手は混乱してしまいます

 
ウェブサイトを制作する際、ウェブ制作会社は一定の秩序だったルールに基づいて階層別に見出しタグ(h1、h2など)を付けます。コンテンツの階層構造と内容を検索エンジンに適切に伝えるためです。これは、検索エンジンがサイトを見付けやすくするためのSEO対策の基本ですが、これと同じことが人間相手にも言えます。見出しタグの階層構造が複雑なウェブサイトを検索エンジンが敬遠するとの同じように、見出しが不必要に多かったり、見出しの階層の統一がとれていないページは、読み手を遠ざける結果につながってしまいます。
 
とりわけ、決算説明会資料や中期経営計画資料など、読み手が重要なポイントを素早くつかみたいと思っている資料においては、見出しの数を絞って、自然にポイントに目がいくようにすることが大切です。これは英語に限らず日本語でも本来同じことですが、海外の機関投資家などを意識して日・英両方の言語で資料を発表するような場合には、日本語版をデザインする時点で見出しを少なく整理するなどの配慮が必要です。

見出しが長い時は、タイトルケースは避けた方が無難

  
日本語版を翻訳して英語版を作成する場合、見出しが通常の英語のスタンダードから考えると長くなりすぎてしまうことがよくあります。これについては前回のコラムで取り上げた通り、見出しをコピーエディットして短くするのがベストですが、やむを得ず長い見出しのままデザインしなければならない場合には、タイポグラフィ(文字)の扱いによって、見た目の違和感を多少軽減できるかもしれません。
 
この場合、まず知っておきたいのは、英文で見出しを表記する際には、基本的に次の3つの方法があるということです。
 
 
1. タイトルケース(Title case)(キャップ&ロウ)

Hedge Fund Firms Hired Women for Almost Half of New ESG Jobs

    • 各単語の頭文字が全て大文字(冠詞や短い前置詞などは除く)。
    • 米国で用いられることが多い。
    • 大文字(Capital letters = Uppercase letters)と小文字(lowercase letters)を組み合わせることから、日本では「キャップ&ロウ」と呼ばれることが多い。

 
 
2. センテンスケース(Sentence case)

【例】Hedge fund firms hired women for almost half of new ESG jobs

    • 冒頭の単語と固有名詞の頭文字は大文字、それ以外は通常の文(センテンス)と同じく全ての単語の頭文字が小文字。
    • 米国以外の国で用いられることが多い。

 
 
3. オールキャップス(All caps)

【例】HEDGE FUND FIRMS HIRED WOMEN FOR ALMOST HALF OF NEW ESG JOBS

    • 全ての文字が大文字。
    • 見た目のインパクトが強くなるので、事件報道やゴシップ報道が多いタブロイド紙(大衆紙)でよく用いられる。
    • 一定以上の長さになると読みにくい。
    • 広報資料などで用いる場合、使い方には注意が必要

 

 
 
上掲の参照コラムでも取り上げましたが、3つのうちのどれを採用するかについて特にルールはありません。基本的に個々の出版物の編集者やデザイナー/タイプセッターが決めれば良いことです。とは言え、オールキャップスについては、上述のようにかなりインパクトの強い印象になるため、広告や冊子のタイトル、章のタイトルなどには用いますが、小見出しに用いることはさすがに多くありません。
 
タイトルケースは、オールキャップスの次にインパクトが強い見出しです。しかも、各単語の頭文字が大文字になっていて見た目に凹凸ができることで、オールキャップス以上にメリハリがつきます。要所要所に限定的に使えばアイキャッチとして効果がありますが、使いすぎると紙面がうるさく、逆効果になってしまいます。
 
日本人が英文紙面をデザインするときに特に気を付けるべきなのが、このタイトルケースの扱いです。広報出版物の制作元が翻訳会社に英訳を依頼すると、見出しや小見出しがタイトルケースになった英文原稿が送られていることがよくあります(最終成果物を意識しないタイプの翻訳者や翻訳会社の場合、不統一な場合もよくあります)。しっかりとした英文編集者が目を通さないまま、このような原稿をデザイナーに渡すと、大抵のデザイナーは特に疑問を感じることなく、送られたきた原稿をそのままタイトルケースでレイアウトしてしまいます。
 
タイトルケースにすること自体は、別に悪いことではありません。見出しの数が限られていたり、見出しの長さが5〜6ワード程度までのコンパクトなものであればそれで構いません。ただ、最初に述べたように、英訳版の見出しは長いものが多かったり、見出しの数が多いこともよくあります。一目でポイントを掴みにくい長い大見出しや小見出しの場合にタイトルケースを使うと、その凹凸によって見た目の「うるささ」が助長されてしまいます。こういった場合は、タイトルケースを避けてセンテンスケースを用いた方がボリューム感が抑えられ、見た目の「うるささ」が軽減されます。
 
 


翻訳版などで見出しが長くなってしまう場合、タイトルケース(左)よりも、センテンスケース(右)にした方がボリューム感が抑えられ、多少読みやすく感じられるようになります。

 

 英文では小見出しの頭にビュレットは用いない

 
小見出しのデザインについて、決算説明会資料や統合報告書の英語版を想定した際にもうひとつ気になる点があります。日本で小見出しの頭に付けられることが多い、丸(●)や四角(■)の印=ビュレットです。このビュレット(英語では"bullet"(発音は「ブレット」に近い))、日本では小見出しの階層を区別するためにを用いることがありますが、英語ではリスト表示する場合以外、こういった記号を用いることはほとんどありません。飾り罫などをデザイン処理として見出しに付けることはありますが、小見出しの頭のビュレットは海外読者にとって見慣れないものですので、違和感がある上、紙面をうるさく見せてしまう要因になります。ですから、日本語版にビュレットがあったとしても、英語版では基本的にビュレットは用いない方がベターです。また、日本でよく用いられる隅付き括弧(【 】)も欧文にはない記号ですので、これも英文版では避けるべきです。
 
 

 
ビュレットや隅付き括弧を使った小見出しは欧米では一般的ではなく、うるさい印象を与えてしまう恐れがあります。

 
 
 
では、英文のレイアウトで小見出しのレベルをどうやって区別しているかというと、次の4つのいずれか、もしくは組み合わせで見せるのが一般的です。
 


    •  
    • 同一フォントファミリー内でウェイトなどのバリエーションを変える(イタリック、ボールド、ライト、コンデンスドなど)
  •  
    • オールキャップス/タイトルケース(キャップ&ロウ)/センテンスケースの使い分け
  •  
    • ポイント数を変える(通常、下の階層では少し小さく)
  •  
    • 文字色を変える
    •  

 
このうち、とりわけについては欧文特有の機能であり、海外の読者にとって違和感のない紙面に仕上げる上で有効です。英文版をレイアウトするデザイナーの方には、ぜひこの点に留意していただきたいと思います。
 

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「英語版」にありがちなうるさい見出し──この問題を避け、海外読者にとって違和感のない紙面を作るには、日本語版を作成する時点でマルチカルチャラルな視点を持つこと、そして英文の文章とデザインを総合的に見れる英文編集者の視点が欠かせないのです。
 

(了)

 
 
 

※上記の各レイアウトサンプル画像はこの記事用に独自に作成したものです。(プレゼンテンプレートを除く)

デザインクラフトでは、英文アニュアルレポート/統合報告書、英文パンフレット/ブロシュアのデザインのほか、和文から英文への差し替えレイアウトなどのご相談も承っております。企画からライティング、翻訳、デザイン〜DTPまで、ワンストップでの対応も可能です。詳細をお知りになりたい方は、Contactよりお気軽にお問い合わせください。

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Author

筆者:吉田周市
デザインクラフト代表。クリエイティブディレクター/翻訳者。海外広報専門の制作会社に12年在籍し、大手広告会社、証券系IR会社、電子部品メーカー、金融機関、経済メディア、官公庁、国際機関、在日大使館などを主要クライアントとして英文広報・IR関連のクリエイティブ業務・翻訳業務に携わる。2008年に現事務所を立ち上げ、以来、京都を拠点に多言語でのPR/IRクリエイティブの企画・制作と翻訳業務を続けている。
主な訳書

新標準・欧文タイポグラフィ入門 プロのための欧文デザイン+和欧混植
ハリウッド映画の実例に学ぶ映画制作論 - BETWEEN THE SCENES
PICTURING PRINCE プリンスの素顔

など。