英語版だと余計気になる⁈──
ページものに不慣れなデザイナーが統合報告書でおかしがちな、
読みにくいレイアウト例
英語版だと余計気になる⁈─ページものに不慣れなデザイナーが統合報告書でおかしがちな、読みにくいレイアウト例
デザインクラフトでは、統合報告書の日本語版を英文に置き換えるDTPを担当させていただくことがよくあります。英文エディトリアル(編集)デザインに精通している点を評価いただいているのですが、そんな中でちょっとしたもどかしさを感じるケースもあります。それは、日本語版自体のレイアウトが読みやすさへの配慮に欠ける場合です。通常、私たちが英語版のDTPをさせていただく際には、日本語版の紙面デザインは確定しているケースがほとんどです。日本語版のレイアウト自体に読みにくさを助長する要因がある場合、多言語版の紙面も読みづらいものにならざるを得ません。
では、読みやすさへの配慮に欠けるレイアウトとはどのようなものを言うのでしょうか? 今回は、統合報告書を担当する日本人デザイナーが陥りやすいいくつかの例を検証してみます。
1. 文章の流れがわかりにくい段組み(「ハラ切り」に相当するもの)
上のレイアウト例を見てみてください。2コラム(2段組み)に組まれたページですが、左側のコラム(段)を読んでいて次のセクション小見出しが出てきた際、そのまま下の小見出しに進むべきか、右コラムに進むべきか、わかりにくくないでしょうか? こうした明らかな2コラム立てのレイアウトの場合、まず左コラムをページの上から下まで読み、その後で右コラムに移動すると考えるのが通例です。しかし、上の例では、小見出しがコラム組みを横断する「区切り」になっています。このような扱いは、多くの場合、読者に混乱をもたらします。小見出しをコラムを横断する「区切り」にするのであれば、下の例のように、罫線を用いるなど、区切りが明確にわかるデザインにすべきです。そうでなければ、片側のコラムを上から下まで通して読んでいける流れにすべきです。
新聞記事の編集業務では、段間の空白が端から端まで通ってしまうレイアウトを「ハラ切り」と呼んで、タブーとしています。これは「ページもの」を扱っているデザイナーにとって本来「常識」ですが、統合報告書などの企業レポートには、なぜかこうした例が多く見受けられます。そうした編集の定石に精通している人が発注側にいないこと、もしくは、IRやサステナビリティ・レポートへ理解に乏しいデザイナーが少ないこと──その何れかまたは両方ではないかと思います。
2. 一段組みと複数段組みの混在/わかりにくい階層
こちらの例では、見開きページの同一レベルの項目に一段組みと二段組みが混在しています。一見問題ないように思えるかもしれませんが、編集のプロからすると「何と稚拙な!」と思えるレイアウトです。なぜ「稚拙」なのか?──それは、階層の扱いが不統一なことで記事の構造(優先順位)がわかりにくくなり、その結果、求める情報を見つけにくいからです。
統合報告書の中でこうした稚拙なレイアウトがよく見られるのが、コーポレートガバナンスのセクションです。これは、実のところ、デザイナー/レイアウターだけの問題ではありません。小見出しの階層が異常に多い上に、本来同じ階層と思える小見出しの扱いを変えていたり(番号の有無など)、同じ階層の文章量がまちまちだったりなど、「デザイナー泣かせ」の原稿自体が要因です。そうした平仄が揃っていない原稿になっているのは、コーポレートガバナンス報告書などの別の文書の内容をそのまま流用するケースが多いからでしょう。インベスター・リレーション(IR)やステークホルダー・リレーションが投資家や利害関係者向けの「広報」であるという観点に立てば、事務的な文書をただ貼り付けただけのそうしたレポートのあり方(=編集)自体、見直すべきでしょう。ただ、大きな組織になればなるほど、そうした「前例踏襲」がなされるケースが多いのも事実です。
そこで否応なしに真価を問われるのが、デザイナー/レイアウターです。下の画像は、上の例と同じ見開きページのデザイン・バリエーションです。
こうした整理の行き届いていない原稿を扱わなければならない場合、次のふたつに留意すると少しは読みやすくなります。
1. 各階層の小見出しの扱いをできるだけ統一、かつメリハリをつけ、階層構造を明確にする。
2. できるだけシンプルなレイアウトにして、文章の流れをわかりやすくする。
なお、上記1.の小見出しの扱いについては、下のような編集上の定石を踏襲することができるとなお良いでしょう。
- 小見出しは、同じ階層内に2つ以上必要な場合にのみ設けるのが原則。小見出しにあたるものが1つしかない場合は、そもそも小見出しを設ける必要はなく、上の階層の見出しに主旨を組み込んだり、本文に含めるなどすべき。
- 見た目上は同じ階層であっても、「重み」的に異なる小見出しがある場合は、書体のタイプや大きさ、色などで、その意味合いの違いを明確にする。
- 「1, 2, 3」や「a, b, c」といった番号付きの小見出し(Numbered subheads)は、他のセクションからのクロスリファレンス(相互参照)が必要な場合などを除き、推奨されない。その番号が本当に必要か、再考する。(参照:「英文の見出しやリストのナンバリングにルールはある?」)
3. 文字が小さすぎる!
近年は、印刷〜製本を前提としない企業報告書が増えてきています。パソコンやタブレットでPDFを閲覧するスタイルの方が、コスト的にもユーザー側の使い勝手も優れていると言えるでしょう。ただ、その弊害か、最近の統合報告書には小さすぎる文字が多いように思います。全体的に文字が小さくなったというよりは、例えば、フォトキャプションや図表内の項目・注釈などが、印刷の時代ではタブーとされていたレベルまで小さくなっているのです。デジタルツールで閲覧する場合、拡大表示すれば良いのでしょうが、読む側にすればその一手間が煩わしいですし、少ない部数であっても印刷版を用意する企業もまだまだあります。
そうした小さな文字が増えた要因には、制作側の環境の変化もあるでしょう。モニター上での確認・閲覧が当たり前になり、以前のように束見本を作って実寸で確認するといった作業に慣れていない、あるいはそうした意識を持っていないデザイナーが増えてきていると考えられます。また、特に統合報告書の場合は、1ページに収めるべき原稿が多すぎるという編集サイドの問題もあります。このことは、英語版の制作においてとりわけ致命的です。日→英の翻訳では、テキストの物理的なボリュームは、元の日本語の1.2〜1.5倍程度に増えます。和文でかろうじて読める大きさの原稿を同じスペースに収めようとすると、英文では判読困難なレベルになりかねません。
上の例のようなページ構成要素の場合、デザイナーだけでできることは限られています。グラフの数値も判読できなければならないし、業績の要因を示す説明文も重要です。上の例では、この説明文がまるで「注」のような扱いになっています。このような扱いでは、読者の目がそこに惹きつけられることはまずないでしょう。ただ、こうした業績説明文では、グラフを見ればわかる内容を文字に起こしただけというケースがままあります。本当にその「説明文」は必要なのか? この業績ハイライト・ページで一番見せたいものは何なのか?——そうした編集者の視点が本来は必要です。ここに説明文を入れなくても、同様の内容がCFOによる業績説明など、他のページで触れられているかも知れません。そうした場合、このページはグラフだけで見せるページにしても良いでしょう。もし、ここで文字情報を見せることが重要なのであれば、そちらを「主」にして、読者を「読む気」にさせるような編集・レイアウトを意識した方が良いでしょう。下の例はそうした視点で編集・デザインしたものです。
以上、今回は、デザイナー/レイアウターの視点で、統合報告書をレイアウトする際の「落とし穴」と、それを回避する具体例を紹介しました。ただ、上でも述べた通り、そうした「読みにくさ」の大半は、原稿を用意する編集者側の問題です。そして、この問題は、統合報告書の存在意義にも関わってくるものです。
日本企業の統合報告書の中には、「出さなければならないから、出しておく」という雰囲気が滲み出ているものが多い気がします。お役所の「公報」のようで、「広報」になっていない──そんな印象すら受けるものもあります。今のところ日本では、統合報告書の作成・開示が義務化されているわけではありません。その構成や内容に関しては、IIRC(国際統合報告評議会)による指針はあるものの、こうでなければなればないという「ルール」があるわけでもありません。
日本企業に限ったことではありませんが、IR支援の制作会社やコンサル会社などが統合報告書の制作をサポートする際、既成のフォーマットに当てはめようとする傾向が強いように思えます。企業のIR担当者には、そうした外部企業の言われるままにならない問題意識が必要ではないでしょうか。それは、決して難しいことではありません。「この文章・この見せ方で、自分なら理解できるだろうか?」──読み手の立場に立ってそう考えてください。そして、その上で、PR/IR担当者・原稿作成者・デザイナーが組み立てラインのように自分のパートだけをこなすのではなく、前後の工程を意識し、しっかりとコミュニケーションをとって、包括的・横断的に機能することが大切でしょう。
※上記の各サンプル画像は、この記事用に独自に作成したものです。(他者に帰属するレイアウトなどは使用しておりません)
デザインクラフトでは、英文アニュアルレポート/統合報告書、英文パンフレット/ブロシュアのデザインのほか、和文から英文への差し替えレイアウトなどのご相談も承っております。企画からライティング、翻訳、デザイン〜DTPまで、ワンストップでの対応も可能です。詳細をお知りになりたい方は、Contactよりお気軽にお問い合わせください。
Author
デザインクラフト代表。クリエイティブディレクター/翻訳者。海外広報専門の制作会社に12年在籍し、大手広告会社、証券系IR会社、電子部品メーカー、金融機関、経済メディア、官公庁、国際機関、在日大使館などを主要クライアントとして英文広報・IR関連のクリエイティブ業務・翻訳業務に携わる。2008年に現事務所を立ち上げ、以来、京都を拠点に多言語でのPR/IRクリエイティブの企画・制作と翻訳業務を続けている。
『新標準・欧文タイポグラフィ入門 プロのための欧文デザイン+和欧混植』
『ハリウッド映画の実例に学ぶ映画制作論 - BETWEEN THE SCENES』
『PICTURING PRINCE プリンスの素顔』